米南カリフォルニア大学レオナルド・アドルマン教授が開発
DNAコンピューターは、DNAの特性を応用して、多数の変数の組み合わせによる複雑な計算を並列処理するコンピューター。点と線で結ばれたネットワークの中から特定の条件を満たすものを選別するなどの複雑な演算に向いている。
米南カリフォルニア大学のレオナルド・アドルマン教授が開発したアルゴリズム(計算手法)に基づて計算を行う。
プリンストンの北米研究所
DNAコンピューターが実用化されれば、複雑な高密度集積回路(LSI)内の配線設計、効率的な通信ネットワーク構築などの分野での応用が期待できると予測された。
米国の大学街であるニュージャージー州プリンストンにあるNEC北米研究所のピーター・カプラン氏らのグループは、アデニン、グアニンなど四種類の塩基を組み合わせた人工DNAを0と1の組み合わせによる符号に見立てた。
化学反応により順列を一挙に作成
従来のコンピューターは問題が複雑化すると演算時間がねずみ算式に増えるが、DNAは化学反応により計算対象の符号同士のすべての順列を一挙に作成できる特性を持っており、演算過程を大幅に短縮できる。条件に合わないDNAを分解する制限酵素を加え、残ったDNAを調べることで解答が得られる。
実験では「お互いがそれぞれ航空機の直行便で結ばれた米国の都市の組み合わせで、最大の都市群には何都市が含まれるか」という問題を設定、解答を得るのに成功した。DNAの組み合わせを増やせばより複雑な演算が可能となった。
超並列演算が得意
DNAのような分子は非常に小さく、演算素子として使うことができればトランジスタとは比べものにならないほど高密度化できる。たとえば現在1gのSi基板上には107個のトランジスタを集積できるが、同じ1gの水の中には約1022個の分子が含まれる。超並列演算に向いたコンピューターが作れることは容易に想像できる。
ところがつい1990年代半ばまではDNAコンピュータの研究が遅々として進まなかった。数学や情報処理の研究者はDNAコンピュータの理論的な可能性に気付いていたが、DNA自体の操作には不慣れだった。一方、操作はお手のものの遺伝子工学の研究者にとっては逆に演算アルゴリズムの研究には慣れていなかった。
公開鍵暗号のRSA方式を開発
そのような状況の中、1994年に米南カリフォルニア大学のレオナード・M・アデルマン教授がDNAを用いたコンピュータの実験に成功した。アデルマン氏は公開鍵暗号のRSA方式を開発した3人のうちの一人である。
早稲田大学の研究グループが発足
実験成功が報道されると、世界各地に研究グループができ、理論面を中心とした研究が始動した。
日本では、早稲田大学、東京大学、埼玉大学で組織する5つの研究グループが1996年に発足した。5年計画で「分子コンピュータの理論と構築」という研究を進めた。
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▼DNAコンピューティングとは